美術館巡りと音楽と

主に東京近辺の美術館、企画展巡りの徒然を。できればそこに添える音楽を。

吉田博展 -東京都美術館

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桜もすでに満開の上野、平日なのに人多いな、と思ったらすでに春休みの時分である。

 

修学旅行か何かか、中学生か高校生の子らもちらほら。

 

それにしても、美術館にいる女の子は可愛く見えるのはまあだいぶ気のせいだろうが、ともあれ絵もさることながらつい女の子も観てしまう。

 

吉田博展

というわけで、上野美術館で開催中の吉田博展へ。

 

商談も入ってなかったので、思い切って有給を取って。

 

今週末で終わってしまうので、混む可能性も加味していってやろうというわけだ。

 

【開催概要】

没後70年 吉田博展。
世界を魅了した日本の木版画があります。洋画家としての素養を持ちながら版画家として新たな境地を切り開いた吉田博(1876~1950年)の木版画です。本展は、吉田博の没後70年にあたる節目に、後半生の大仕事として制作された木版画を一挙公開。

 

【開催期間】

2021年1月26日〜3月28日

 

ちょうど先日練馬美術館で見た中に吉田博の絵もあり、そういえばと思ってね。

 

浮世絵からさらに発展させた木版画の世界を築き上げたそうである。

  

個人的みどころ

作品そのものの美しさもさることながら、個人的には彼のインディペンデント精神溢れる活動スタンスがとてもかっこいいと思った。

 

企画展ではなく個人展になると、その作家の画業を振り返る形になるわけだが、特にまだあまり知らない人については網羅的に知ることができるのはありがたい。

 

人によるが、中には時期により画風の大きく異なる人もいるわけで、なぜそうなったのかを辿っていくのは面白いものである。

 

この吉田博さんは、画風ややっている事が大きく変わるということはなく、割と初期から版画という技法を使って描いている。

 

描くモチーフは風景から人物、風俗など様々だが、世界中を旅して描いているので描く対象は時期により異なる。

 

注目すべきはその表現の深化で、後半になればなるほど版画でこんな絵が描けるのかと驚くばかりだ。

 

版画は多分小学生の頃にほとんどの人が作ったことがあるだろうが、凡そそのイメージからは程遠い色鮮やかで細密で肉筆の如き写実性もある。

 

また版画ならではだなと思うのは、同じ絵を違う色で刷り上げることで、全く異なる作品に仕上がることだ。

 

わかりやすいのは昼間と夜を同じ図柄で描き分けるところ。

 

色というものが認識においてどれほど大きな要素かを暗に物語るようだ。

 

また吉田博その人も、海外での活動が有名らしく、割と早い段階でアメリカへ渡り、絵を売りながら旅をしていたとか。

 

しかも、当時は政府の出資で留学というのが盛んに行われている中で、それなんか違くね?みたいな気持ちで自費で渡米したのだとか。

 

自主制作中心だったというから、さながら版画界のインディーズの草分けといったところか。

 

ダイアナ妃やマッカーサーも魅入られた彼の作品は、まさに世界基準である。

 

 

感想的な話

最初期の作品は水彩画からのようだ。

 

元々は版画で世界的に評価を得たというが、最近では初期の作品も再評価が進んでいるのだとか。

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吉田博「穂高

登山も大好きだったという彼は山の絵をよく描いたのだけど、子供の名前も山から取ろうとしたのだとか。

 

彼の次男の名は穂高というそうだ。

 

版画作品でも山脈を描いたものが多いのだけど、細密なタッチはありつつも、色彩などは浮世絵的な感じもあり、まだまだ模索している頃だろう。

 

版画は、絵を描く人と、それを元に版を掘る人、そして擦り上げる人の3組で作品を作るものであるが、吉田博は絵を描くだけでなく自らも掘ったという。

 

浮世絵では絵を描く人の方がやはり有名だけど、実は作品には彫り師や刷り師の名前も押印されている。

 

吉田は早くから海外に出ているので、モチーフも世界各地だ。

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「マタホルン山」

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マタホルン山 夜

画像サイズがだいぶ違ったが、ともあれ何も同じ版でありながら色だけを変えている。

 

全く同じ構図でも、色を変えるだけでここまで印象が変わるのが面白いところだ。

 

まさにリミックスと言ったところか。

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「劔山の朝」

こちらはこの展覧会のメインビジュアルでもあり、彼の代表作といわれる作品。

 

作品全体を見ても、青と赤の境界、紫がかった世界がとても印象的なんだけど、この明け方の風情が私は個人的にも大好きなんで、つい見入ってしまう。

 

そして、こちらがかのダイアナ妃も自室に飾っていたという作品。

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「光る海」

本物は、真ん中の太陽に続くところが本当にキラキラと光って見えてもっと綺麗。

 

ダイアナ妃は、来日した際に自らこの絵を選んでいったという。

 

風景画の印象が強いが、先に挙げた子供の絵も描いている。

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「こども」

息子の穂高君である。

 

これも木版画で描かれているんだけど、こんなに絶妙な濃淡を出せるものかと驚く。

 

浮世絵は好きでよく見ていたんだけど、あのイメージからするとこんなに微妙な濃淡まで表現できることが驚きだ。

 

まあ、私は全然その筋に詳しいわけではないんだけどね。

 

 

後年はインドや東南アジアの風景も描いており、霞がかった表現はすごい。

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「フワテプリーシクル」

こちらは淡い色を何度も剃り重ねて作り上げたという作品。

 

パキッとした境界が特徴とも言える思うが、それがないのだ。

 

人物描写以外の淡い感じがすごい。

 

彼のキャリア終盤はまた日本国内、寺社などをモチーフにした作品が大半をしめていく。

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「櫻八題 弘前城

桜と合わせた風景も多く描いており、どれも美しい。

 

世界を旅して回った彼のキャリア終盤には第二次世界大戦が起こる。

 

大戦は無事生き残った彼が、戦後に描いた作品は1点で、それが最後の作品であったとか。

 

それがこちら。

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「農家」

何気ない農家の風景、派手さもない地味な作品ながら、何気なさこそ彼の作家性だったのかもしれない。

 

彼は自然の側に寄り添った作家でありたいといったことを言ったそうだが、人の暮らしも自然の風景、といったところだろうか。


彼は海外で活動することを常に視野に入れていたため、作品制作も欧米での受けをきちんと考慮して制作していたらしい。

先の電柱絵画展で見てからのこれだったので、その視点も交えると、海外から見た日本的な風景というものを重視していたので、電柱みたいなものは描かなかったのだろう。

 

ともあれ、そうして海外でも著名であったため、GHQマッカーサーも、日本にきた際には彼を訪ね、また手紙も送っていたようだし、また彼の自宅には米兵が訪れて、版画について講義をしたりもしたそうだ。

 

彼の子供たちも、版画家として世界的に著名というから、しっかりと親の背中を見て育ったんですね。

 

 

吉田博と音楽

 そんな吉田博と合わせて紹介する音楽は、さて何にしようか。

 

こちらはイギリスにおいてではあるが、まだ日本でロックという存在自体がしっかりと定義されていないような時代に、いち早く海外のプロデューサーも迎え、高い音楽性によって現地でも人気を博したこのバンドだろうか。


Sadistic Mika Band - Suki suki suki -Old Grey Whistle Test (7th Oct. 1975)

ご存知サディスティックミカバンド。

 

加藤和彦高橋幸宏、高中義正など日本でも有数のプレイヤーも在籍した伝説のバンドだ。

 

73年に1stアルバムをリリースしているが、今聞いてもお洒落で小粋な音楽だ。

 

ボーカルを変えて何度か再結成しており、近年では木村カエラのVoが記憶に新しかろう。

 

彼女はハーフなので、おじさんがイギリスの人だったと思うが、「あのミカバンドに参加するのか!?」とおじいちゃんびっくりしたというのは有名な話だ。

 

いち早く世界に打って出て、実力で評価を勝ち取ったその姿や、日本よりも海外での方が有名になってしまったあたり、同じようなインディー魂を感じざるを得ない。

 

 まとめ

 浮世絵はよく見にいっていたし、版画という表現自体にあまり魅力を感じていなかったというのが正直なところなんだけど、この人の作品はそれをドカンとひっくり返されるような思い出ある。

 

こんなに細かく綺麗で、絶妙なニュアンスまで表現することができるのかと驚いた。

 

中には90回以上も摺りを重ねることで表されるというのも、まさに職人芸だし芸術家だと思うわけだ。

 

今週末で終わってしまうけど、是非本物で見てみてほしい。

 

印刷やこうしたネットの画像で見るものとは、やっぱり全然違うから。