ふつうの系譜
この連休はひたすらゆっくりまったりしている。
元々遠出にあまり興味もないし、何か計画するとその通りにしたしないと気が済まなくなるタチなので、予定は立てずにその日その日で過ごしているが、強いて言えば趣味を謳歌したろ、という点くらいか。
音楽を聴きながらうろうろするのが好きなんだけど、この連休は方々の美術館へ行きながら、少し散歩をして夜は酒を飲む。
そんな日々だ。
で、昨日行ってきたのが府中美術館で開催中の企画展、『ふつうの系譜』というもの。
府中美術館は日本の美術品を多くコレクションしているが、特に狩野派とか円山派のような伝統的な日本の絵画作品なんかを展示している。
他方で大津絵のような緩い作品を集めた企画展もやっており、なかなかにユニークである。
立地は駅から少し離れた公園区画にあるため、美術館を覗きがてら散歩するのもおすすめだ。
連休といえど遠出のできないファミリー層で溢れていたね。
当の美術館の客入りはぼちぼちといった感じで、見る側にとっては極めて快適な密度であった。
春の江戸絵画まつり ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります ー 京の絵画と敦賀コレクション
まず展覧会のタイトルが長い。
こちらは昭和中頃に著された辻惟雄さんという人の著書『奇想の系譜』のいわばパロディーである。
この書籍に基づいた企画展も上野で開催されたが、この書物もあって近年では人気作家になった伊藤若冲、蘇我蕭白らといったやや王道とは異なる人たちが注目をされるようになり、近年では個展まで開かれていたり、海外でも人気であったりする。
一方でそうした変わり種の作家が注目されることで、伝統的な王道の作家たちは,いわば教科書的な扱いとなり、注目度は高く無くなってしまった。
なので、この企画展ではそうした作家をふつうと位置付けて、俗に言う普通にいい絵を紹介しようというわけだ。
こういう企画力は好きですね。
【開催概要】
「奇想」への注目によって「ふつう」になってしまった江戸時代の「きれいなものづくり」──そこには、豊かな歴史と美の手法が生きています。そんな「ふつう」の魅力を知れば、奇想も、そして「日本美術史」という更なる広い世界も、もっともっと輝いて見えることでしょう。
【開催期間】
2022年 3月12日[土]– 5月8日[日]
前期:3月12日[土]– 4月10日[日]
後期:4月12日[火]– 5月8日[日]
私は音楽なども含めて、王道、メインストリームよりもオルタナ、アバンギャルドを好むところがあるのでつい真っ当なものを見ないでいてしまうが、歴史に残るようなものはやはりいいものは良くて、且つ実はそれはそれで奇妙さもちゃんと持っていたりする。
多面的な価値観を育むためにも,こういうひねくれ方は良いですよね。
といいながら結局王道ではない企画を評してしまう辺りが私という人間の価値観である。
何はともあれ面白ければ結果オーライだ。
個人的見所
今回は構成も面白く、冒頭はしっかり企画の趣旨を文章で説明して、まずは奇想と呼ばれた作品を見せていく。
蘇我蕭白や岩佐又兵衛といった作家の作品を通して、今人気の奇妙な人たちの絵を見せていく。
個人的にはこっちの方が見慣れてしまっているのだが、私が絵をちゃんと見るようになってからはそういう企画展の方が多かったからなんだなと思う。
なので、そもそも王道を知らずに育ったので、正直これを奇妙だと思うことはなかった。
こういう絵もあるんだな、くらいである。
もちろんモチーフの奇妙さや不気味さ、あるいは表現としてのグロテスクさのようなものくらいは感じるが、奇妙という感覚ではないという話である。
といって、こちらは走り描きのように描いたらしいが、それでもこのクオリティ。
技術は伊達じゃないよね。
さて、この企画展における普通とは何か。
企画テーマでも語られているように、伝統の中で研ぎ澄まされてきた表現である。
日常にまで取り込まれているものなので、見慣れているからこそ普通に感じてしまうが、実はそういう当たり前になっていることがどれだけすごいのかという話である。
こちらは土佐光起という人の『菊鶉図』という絵。
シンプルな構図だが、鶉の描き方も極めて精細かつ写実的、添えられた花もさりげなく、実に日本的な侘び寂びを感じる作品である。
またこちらは狩野探幽の『朝陽鷹図』という作品。
狩野派は幕府お抱えの絵師集団で、探幽は江戸城や二条城の障壁画も手がけている。
荒々しい岩肌の上に白い鷹が凛として描かれており、点には赤い太陽が輝いている。
昔田舎で見た日本の絵ってまさにこのイメージだったなとなんとなく記憶している。
当時は地味でつまらないと感じたが、今見るとだいぶ見え方は違うんだろうな。
また、日本画に写実的な技巧や考え方を持ち込み一派を築いたのが円山応挙である。
まずは対象をしっかり観察することで、その対象の本質的な描写につながるとして、ただ単にリアルに描くという技法的な話だけでなく、絵を描くとはどういうことかという哲学的な視点が当時は鮮烈だったようだ。
ちなみに彼は硬いモチーフもあるのだけど、有名なのはむしろ動物の絵で、とりわけ子犬を可愛く描くことに執心していたとか。
子犬の絵は多くあり、コロコロとして目がキラキラした様は可愛らしいし、実際彼の「ここ可愛くない?!」みたいな思いが伝わってくるような絵となっている。
先の彼の哲学も表現されているように感じられるので、そういう意味でも面白いと思う。
今回は初めて観る画家も多く、その中の一人が岸連山という人。
岸駒(がんく、と読むらしい)という人を開祖にした岸派と呼ばれる一派の一人だが、この人の『龍虎図』というえが実に迫力があってよかった。
ちょっと荒い画像しか落ちてなかったが、暗黒から龍が立ち現れた様を見て、虎が吠えているような構図で、精密さと荒さのバランスもあってかっこいい絵である。
龍虎のモチーフは数多くあるけど、特に虎は画家によっても描き方が違って、実物を見たんだろうなという人と、何か古典を参照しているのだろうなという人とあって、そうしたところを考えてみるのも面白い。
他にも非常に印象的な絵がたくさんあったのだけど、残念ながら画像が落ちていなかった。
そんなに有名ではないのかもしれないが、こういう企画展で知られるのは良い経験ですよね。
引き続きこんな企画をお待ちしています。
ふつうの系譜と音楽と
さて、今回の企画趣旨から考えると、やはりこちらだろうか。
まあ、こちらはちゃんと評価も抜群で、もはや言わずと知れたレジェンドとなっているはっぴいえんど。
細野晴臣、松本隆、鈴木茂、大瀧詠一という昭和歌謡曲を作り上げたと言っても過言ではないメンバーがいた文字通り伝説のバンドだ。
アイドルポップからシティポップ、テクノにロックにとそれぞれのソロも含めて圧倒的な音楽性でもって存在していた。
何度も再評価されているくらいだし、山下達郎らも含めてJ-POPの雛形とも言える存在たちだろう。
彼らはアルバムとしては3枚だけ、活動期間もほんの数年だったが、日本語でロックを奏でるという基礎を作ったのもの彼らだ。
この“風をあつめて”という曲はTVCMでもしばしば使われていたり、いろんなアーティストにカバーもされているので、聴いたことある人の方が多いだろう。
当たり前を作った人って、やっぱりすごいよね。
まとめ
ふつうに感じるものも、かつては異端だったものがほとんどで、それが時代を経て受け入れらて、当たり前になっていったわけで、そうなるにはそれなりの理由があるのである。
もちろん権力に守られるという外的な要因がある場合もあろうが、そうはいっても伝統的とされる一派も当時の時代では新しい風を吹かすためにあえて選ばれたという経緯もあるという。
絵画や芸術だけじゃなくて、スマホだってそうである。
これなんてほんの10年かそこらの出来事だよ。
時代は変わっていく画、変わってもなお残り続ける普遍を作っていけると良いよね。