美術館巡りと音楽と

主に東京近辺の美術館、企画展巡りの徒然を。できればそこに添える音楽を。

蘇我蕭白奇想ここに極めり

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私は現在転職に伴う有休消化により、少しくゆっくりした日々を送っている。

 

それで帰省もしようかしら、と言って旅に出てみたりもしているが、その一環で普段出向かない美術館にも行ってみようと足を伸ばしてみた。

 

そこで赴いたのが、名古屋にある愛知県美術館というところ、ちょうど蘇我蕭白の展覧会を催しており、以前に上野で少しだけみたことあったが、個展としては初めてと言うこともあり、いったろうやないかというわけだ。

 

美術展そのものももちろん面白いし、それが本懐であるのは間違いないが、美術館そのものの魅力もやっぱりあるものだ。

 

そもそも蘇我蕭白という人は、元はといえば奇想の画家として紹介されたことに端を発し、今では世界的にも有名な伊藤若冲らとともに、昭和のある研究者により見出されたことが注目をされる様になった端緒である。

 

その画風はグロテスク、しかし確かな実力を示すものを持っていたからこそ、今日に至るも注目されているという訳だ。

 

断片的には方々で紹介されていた存在だが、図らずもまとまって見る機会とあらば、ぜひにとなるわけさ。

 

奇想ここに極めり

【開催概要】

力強い筆墨と極彩色で超現実的な世界を描き出した曽我蕭白(1730-81)のあくの強い画面は、グロテスクでありながらおかしみもたたえ、見る人をひきつけて止みません。本展では、強烈な印象を与える蕭白の醜怪な表現を紹介すると共に、その原点となった桃山時代の絵画、そして江戸時代初期の絵画との関係を掘り下げることで、蕭白がいかにして型を破り、奇矯な画風を打ち立てたのかを明らかにし、また晩年の作品への変化を通して画業の到達点を見定めます。

【開催期間】

10/31-11/21

出典:https://static.chunichi.co.jp/chunichi/pages/event/soga_shohaku/

 

得てして変態と呼ばれる人は、ただ単に同時代での無理解が故であったりするものだ。

 

およそ芸術がそれを超越する存在であれば、だからこそ今日に評価される事もあろう。

 

まあ、彼の作品は今見てもまあまあグロテスクであり、他方では何かの本質を捉えているようにも感じられる。

 

それも作品としての魅力であるわけで、そうして人により評価が割れるからこそ今日的にもなお興味を誘う存在なのだろう。

 

個人的見どころ

この展覧会では初期から晩年の作品まで、さすが個展といった感じで網羅されており、その作風の変化を追えるのも面白い。

 

彼の代表作といえば、やはり面妖な人物を描いたものたちであろう。

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群仙図屏風

冒頭に展示されている作品だが、水墨画が多く紹介される中でかなり彩色も鮮やかな作品。

 

仙人たちの顔がいかにも面妖だが、何より子供が可愛くない。

 

他の作品を見ればわかるが、どうしてもこうとしか描けない訳ではないのである。

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雪山童子

こちらも上野でも展示されていた作品だが、こちらは割と子供らしい子供だと思う。

 

仏教画としてはなかなかアバンギャルドなものらしいが、鬼の青と童子の赤い衣の対比も鮮やかである。

 

動物の絵にしても同様で、この人はべらぼうに絵が上手いので写実的にも描けるはずなのだが、敢えて気色悪く描いているのかしら、というものも多くみられる。

 

最初の絵においても、右端の方に天女?と蝦蟇仙人が描かれているが、その傍らに爬虫類の如きが描かれているのだけど、こいつがまた気持ち悪い。

 

是非拡大してみてみてほしい。

 

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唐獅子図

こちらは有名な作品だが、独特のタッチながら迫力のある力強い絵である。

 

彼の水墨画は線も太く、濃淡のはっきりしたものが多いのだが、そうかと思えば枝葉の描き方はとても繊細で合ったりするため、そうした対比もおもしろい。

 

中にはとてもコミカルというか、親しみやすかったり可愛らしかったりするものもある。

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石橋図

こちらは獅子の群れが石橋を渡らんとしているところだが、顔の基本は先の唐獅子同様で迫力があるが、あの中の文脈のせいかなんだか情けないように見える奴もいて面白い。

 

また勢いよく登るもの、びびってる風なもの、落っこちていくものなどさまざまおり、そうした躍動感も見どころだ。

 

この人は絵を描くのが好きだったんだろうなというのをなんとなく感じるような楽しい絵であらように思う。

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山水図

ダイナミックな絵が目を引く一方で、山水画と呼ばれるいわゆる風景画は、輪郭線もはっきりしており、ある程度補修されているところはあるにせよ、非常に几帳面さすら感じるものが多い。

 

同じ画家の作品なのかと訝る思いだ。

 

 

奇想の画家と紹介されたことで、ある種強烈な絵が代表作として紹介されるが、一連を見ながら感じたのは彼なりに何か本質を描こうとしたのかな、ということである。

 

詳しい解説とかはあんまり読んでないので的外れかもしれないが、可愛くない子供や醜悪とすら言える老人たち、他方で絵面自体は大きく変わらないはずなのにどこかほっこりする場面も多く描かれており、そこに一面的でない、また絵画表現というものがあるように思うのである。

 

展示作品も多く、彼の師匠と考えられている人の作品も展示されておりボリューム満点である。

 

期間中2回も展示替えがあるというが、流石にただ足を運ぶのが難しいのが悔やまれる。

 

蘇我蕭白と音楽と

面妖さとある種露悪的、しかし抜群のセンスも技術もあるからこんな人はどうだろうか。


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エイフェックスツイン window ricker

 

ご存知アンビエントテクノの御大、Aphex Twin である。

 

露悪的なものを選ぶとしたら、やはりこの"Window Licker"だろう。

 

曲そのものはスタイリッシュでもあるが、しかしこの映像の気色悪さよ。

 

観る人を嫌な気持ちにさせるための表現ではないだろうか。

 

ナイスバディな女性の顔がみんなAphex Twinの顔になっている。

 

彼はしばしば自分の顔をコラージュしたようなアートワークを作っているが、笑顔の歪んだジャケットはとても有名だし、別の曲では子供の顔がみんなこうなってる。

 

かといってそんな表現ばかりでもなく、むしろロゴはめちゃスタイリッシュでかっこいいし、アルバムごとにもジャズ的な要素を入れたものもあるし、時には別名義でしれっとリリースして世間を騒がしたりしている。

 

また人物に触れても奇人との評判がもっぱらで、テレビの砂嵐の楽しみ方をビョークに説いたとか、ライブ中犬小屋に入っていてずっと出てこないとか、それどころか本人ではなかったのではないかとか、戦車を買ったとか、何かとエピソードも満載である。

 

数年前のフジロックで来日したが、その時のパフォーマンスは謎にマニアックでコミカルながら不気味な映像が話題をさらった。

 

しかし、本質は非常に素晴らしい音楽家で、息をするように曲を作っているような人であるらしい。

 

好きこそ物の上手なれ、変態くらいがちょうどいいのかもしれない。

 

まとめ

わかりやすさは必ずしも親しみやすさではない。

 

見た目に美しいばかりが美しさでもない。