美術館巡りと音楽と

主に東京近辺の美術館、企画展巡りの徒然を。できればそこに添える音楽を。

福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧

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私は先月後半は転職に伴う有給消化で、短いながらに悠々たる日々を送っていた。

 

と言いながら、割と日々予定があり、土曜は昼間は寝ていたが夕方は友人と音楽ライブ、日曜はまったりしつつ美術館へ(こちらもまた書かねば)、昨日は次の職場へ赴き午後からずっと色々の話を聞いたりしていたが。

 

まぁ、気が抜けている段階で既に休日か。

 

ともあれ、午前は久しぶりに少し運動をして、昼前に外出、以前住んでいてところにほど近い通いだった店で飯を食い、そのまま千葉市美術館へ行ってきた。

 

都内に越してからは移動時間もかかるため、割と心しての移動だが、大学入学時からほんの6年くらい前までは千葉に住んでいたため、割と昔馴染みの土地であり、また図らずも高校時代に一度部活の大会できたのも千葉駅辺りだったので、なんとなくそんな思い入れや思い出のある地である。

 

別に何があるわけでもないエリアだが、そこはかとない街の景観こそがそれを感じさせるというもの。

 

といいつつ大分時間も経っているので景観は変わっており、駅はすっかり改修されて久しく出口がわからない。

 

またパルコも既にビルごと取り壊されている。

 

大学時代によく通っていたし、なんなら高校時代に来たのもここで、タワレコ頭脳警察King Crimsonを買ったのはいい思い出である。

 

しかし、時の流れは絶えずして、気がつけばそんな有様だ。

 

諸行無常

 

ともあれ、今は私は全く知らなかったが、福田美蘭という人の個展、観るに日本画の方だらうか、などと言いながら馳せ参じた。

 

福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧

失礼ながら存じ上げなかったが、まだまだ現役の方なんですね。

 

日本画や浮世絵などをモチーフに、想像からひと手間加えて、言うなればリミックスしたような作品である。

 

【開催概要】

福田美蘭(1963-)は、東京藝術大学を卒業後、最年少での安井賞や国際展での受賞等、国内外での活躍を通して独自の作風を切り拓き、絵画の新たな可能性に挑戦し続けています。人びとの固定観念を覆し、新たなものの見方や考え方を提案する福田の芸術は、単なる絵画という枠にとどまらず、豊かな発想力によって独自の展開を遂げてきました。
 これまでも日本美術をもとにイメージを広げた作品を多く発表してきた福田ですが、本展では、千葉市美術館のコレクションから、自らが選定した江戸から明治時代の美術をきっかけに、新たに創作された作品を中心に展示します。(略)この作家の新作とともに、発想元となった千葉市美術館のコレクションも同時に展観いたします。
 本展は、2001年の世田谷美術館、2013年の東京都美術館以来の大規模な個展となります。福田の飽くなき探究心をもって制作された作品を通して、コレクションの意義を見直すとともに、美術館という場における私たちの体験そのものを問い直す契機になればと願っています。

【開催期間】

2021年10月2日[土] – 12月19日[日]

出典:https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/21-10-2-12-19/

 

正直はじめのうちはあまり意味が分からなかったが、ご本人による解説も見ていく中でなるほどそういうことかとわかってくる。

 

そもそもご本人の弁であるわけで、おかげでこの作品はどんな着想で制作したのかというのは興味深い。

 

その解説も読んでいる中で思ったのは、いい意味でのゆるさというか、この人の発想なんかが面白く、つい途中から笑いながら見るハメに。

 

絶妙にふざけている。

 

個人的見どころ

千葉市美術館収蔵のコレクションから本人自ら選出したという作品群は、総じて浮世絵をモチーフにしたものが多い。

 

例えばこちら。

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「けむたい」

左側は月岡芳年という人の「けむたい」という版画作品だが、こちらを元に制作されたのがみ右側の作品である。

 

一見模写かと思われるが、よく見ると煙の形が五輪マークになっている。

 

この作品はまさに東京オリンピックの開催の是非が語らえれていた頃に制作されたので、コロナのおかげで政治家にとっても世間にとっても煙たい存在になってしまったことを皮肉っている。

 

こちら以外にも五輪をモチーフにした作品はあるんだけど、ズバリが画像で見つからなかったので元ネタのみ紹介。

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月岡芳年「松竹梅湯嶋掛額(八百屋お七)」

恋に狂った八百屋のお七という娘が、恋人に会いたい一心で江戸に火を放ったという大事件を扱った作品だが、こちらも東京五輪と組み合わせた大作を展示しているので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 

浮世絵だけでなく、水墨画をモチーフにした作品も多く発表しているが、こちらは浮世絵以上に渋い表現なのでぱっと見でわかりづらい分、背景を理解すると殊更コミカルに映るのが面白い。

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こちらは蘇我蕭白の作品をモチーフにしているが、本来は力強い獅子のはずがはたはたとはためく蝶に怯えているという元々コミカルな作品だが、こちらは屏風なっている。

 

屏風は3つ折りになっているので、しまうときには絵画面が接するようになるのだけど、この獅子の面についてはそうして畳むときに蝶と獅子はさらに接近して、獅子にとっては蝶がさらに迫っている状態になる。

 

そこで、畳まれた時の場所に蝶を書き込んだのが福田氏の作品だが、こちらは絵画の中の物語と屏風というそことは別の世界線をつなげたメタ的な視点の表現である。

 

この絵を眺めているときに、畳んだらもっと近くなって気の毒だな、と思ったところからの着想だそうな。

 

ちなみに画像はもとの絵の画像なので、ご容赦願いたい。

 

そのほかにも春夏秋冬の風景を描いた作品の中に文字を忍び込ませてみたり、琳派のエッセンスだけを取り出して現代的、というかなんというか、ともあれその表現のためにほうれん草を並べた絵をとってみたり、いずれも視点が絶妙にふざけている。

 

本人が本当にふざけているのかは知らないが、思わずふふふとなってしまう作品である。

 

正直絵だけを見たときには一瞬よくわからないものも多いのだが、丁寧に本人の解説がついているのでそちらも合わせて見ていくと3倍は面白いだろう。

 

展示の最後にはこんな作品が。

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「十三代目市川團十郎白猿襲名披露 口上」

東京五輪でも海老蔵さん(もう名前は変わっているが)が睨みを効かせるパフォーマンスをして、各所で疑問の声も上がったわけだが、こちらはその睨みを描いた作品。

 

さまざまな厄災を振り払うといった意味があるらしく、しかしこちらは誰がやってもいいものではなく、いわば一子相伝

 

團十郎だけが許されたものであるため、開会式でも後継者である海老蔵さんが登場したというわけだそうな。

 

こちらの作品は、このコロナの厄災を振り払ってくれ!といった思いでえがかれた作品で、なかなかリアルで拝むことは難しいからせめて絵画にてというわけだ。

 

面白いのは、この絵の傍には目元だけを切り取った葉書サイズの印刷があり、「お守りとしてご自由にお持ちください」と書かれてある。

 

実にユーモラスだ。

 

 

福田美蘭と音楽と

さて、そんな福田美蘭と音楽を考えてみると、こちらなどどうだろうか。


www.youtube.com

本当はVo酒井さんのやっているthe juicy looksがあるとよかったがなかったのでこちらで。

 

mooolsは知る人ぞ知る日本のオルタナロックの雄で、その交友録は国内外問わず広い。

 

ブッチャーズ世代の少し後輩に当たるそうだが、その界隈ではかなり評価も高いのだけど、一般への認知と人気は残念ながらそれほど高くないというのが実際だ。

 

しかし、楽曲はすべからく素晴らしく、特に彼の書く詞は詩集が出るくらい文学的なものも多い。

 

他方でどう考えてもただふざけているだけとしか思えないものもあるので、聴いていて楽しくなってくる。

 

そしてthe juicy looksではTシャツのおまけとしてCDをつけているのだけど、さまざまな音楽を元ネタに絶妙に変換した作品を収録している。

 

まあ、著作権の関係でリリースは難しいだろうが、その一部はこうしてYoutubeで聴くことができる。

 

こちらはかのDaftpunkの"Get Lucky"のカバー?だが、歌詞は意味不明だ。

 

先日the juicy looksのリリースイベントでは自ら楽曲解説がなされたが、そうして聴くとなるほどそういうことかということがあり、また違った形で作品を楽しむきっかけになっている。

 

表現は製作者の意図とは独立して受け取る側の多様な解釈を生むものであるのでそれはそれとして楽しむものではあるにせよ、やはり制作者の思いはそれとして聴いてみたいものである。

 

それにより、なるほどそういう見方があるのか、といった作品そのもの以外に制作者、アーティストの目線を推し量れるのも面白いのである。

 

コミカルな表現や、ふざけていることは世の中的には真面目に受け止められなかったり、ともすれば批判的に受け取られることもあるけど、本質的にはそれはそれとして真面目な表現のひとつではないかと個人的には思っている。

 

なにが言いたいか伝わるだろうか・・・。

 

 

まとめ

芸術は本来高尚なものでもないし、一部の特権階級のためのものではない。

 

上手い下手はあるし、やっぱり表現することが上手な人はいるからそれが才能と呼ばれるのだろう。

 

とはいえ、作品自体に落とし込まれたときに勉強しないと理解できないばかりではなく、パッとみてなんとなくでも面白いが入り口で十分である。

 

勉強すればもっと面白くなるだけなので、だから色々と掘り下げたくもなるわけだ。

 

こちらの展覧会は12月半ばまでやっているので、冷やかし半分でぜひ覗いてみてほしい。

 

単純に鮮やかさもあったりポップさも満載なので、普段絵画なんて見ないわ、という人でも楽しめると思う。