美術館巡りと音楽と

主に東京近辺の美術館、企画展巡りの徒然を。できればそこに添える音楽を。

百花繚乱 -華麗なる花の世界

f:id:back_to_motif:20210516215724j:plain

この緊急事態宣言において、いろんなイベントごとも映画館も閉じたまま、美術館もどうなるかと言われたが、中には再会をするところもあって、私にとってはありがたい限りだ。

 

 

まだまだ閉館中のままのところは多いが、私が好きな美術館の一つ、山種美術館が時短ながら再開するということで、新しい展覧会も開催されるということで出向くことに。

 

久しぶりの美術館であるが、事前に調べると流石に混雑もなさそうだったね。

 

この美術館は恵比寿にあるのだけど、日本画専門も美術館で、その名の通り山崎種二さんという人が設立した美術館だ。

 

近代の日本画家との交流もあったため、彼のために書き下ろされた作品も多く、有名な画家の作品は概ね見ることができる。

 

ほぼ収蔵コレクションでの企画展も多いため、以前意味たけど見逃してしまっていた作品も改めて別な文脈で見ることもでき、その都度発見もあるため少しずつでも知識を深めていくにも非常に有用だ。

 

また大きさもそこまで大きく無いので、じっくりみても1時間もあれば見終えるボリィームもちょうどいい。

 

私は展覧会のたびに足を運んでいるが、おそらく一番足を運んでいる美術館でもある。

 

今は花の絵を中心にした企画展を開催している。

 

百花繚乱 -華麗なる花の世界

【概要】

鳥が謳い、花々が色とりどりに咲き誇る春は、私たちの五感を楽しませてくれます。当館では、この季節にあわせ花の絵画で美術館を満開にする特別展「百花繚乱―花言葉・花図鑑―」を開催いたします。

(略)

本展では、「物語でたどる人と花」、「ユートピアとしての草花と鳥 」、「四季折々の花」という3つの切り口から花を描いた作品を厳選し、花言葉や花の特徴、花を題材とした和歌や画家の言葉とともに、その魅力をご紹介します。満開に咲き誇る花の表現を通じて、美術はもちろんのこと文学や園芸の視点からも作品を読み解きながら絵画をお楽しみいただける展覧会です。

【開催期間】

2021年4月10日(土)~6月27日(日)

 

出典:【開館55周年記念特別展】 百花繚乱 ―華麗なる花の世界― - 山種美術館

 

 

花鳥風月という言葉があるように、昔から美の形容として花はその代表格であった。

 

多くの画家も題材に選んでいたわけだが、描き方もタッチも変わるので面白いものだ。

 

個人的見どころ

正直に白状すると、私はそんなに花の絵が好きなわけでは無い。

 

それこそブリューゲルなどの花の生物画の名手とされる人の展覧会も割とよくみに行ったけど、風景画の方が好きだし、そもそも私は実家も花を飾るような家でもなかったし、なんなら花粉症なので花って苦手なんですよね。

 

ともあれ、何度も絵としてみていると、やはりそれなりにじっくり見るようにもなるわけで、それなりに楽しめるようにもなるものだ。

 

山種美術館日本画専門なので、では日本ではどのように花が描かれてきたのかもみられるのが面白いところだ。

 

そもそも油絵で描かれることの方が多い西洋画に対して、日本画は画材も違い、それが必然表現の形も異なる。

 

そこが専門美術館として見る時のおもろしみの一つでは無いだろうか。

 

特に日本では四季の変化が代名詞だ。

 

それに因んだ連作も多くあるわけだが、本展覧会の目玉の一つがその四季を描いたこちらだろう。

f:id:back_to_motif:20210516223855j:plain

荒木十畝「四季花鳥」

春は桃色と赤の絵に雉子?を描いた明るい色彩、夏は青白赤と、何より緑も鮮やかだ。

 

秋葉花は落ちて紅葉の赤が彩っており、冬は雪と小さな白い梅?が彩っている。

 

その白が際立つように湖面の青が鮮やかで、この辺りの対比が画家としてのセンスだろう。

 

夏の賑わいも画面から溢れているし、秋の静かになり始めるような空気もいいじゃないか。

 

作品はかなり大きな絵なので、視界いっぱいに眺めると迫力も素晴らしい。

 

f:id:back_to_motif:20210516224245j:plain

小林古径 「蓮」

また、この展覧会で出品数の多い画家の一人が小林古径だと思うが、個人的には彼の絵はみていると不思議な気分になる。

 

西洋画のがっつりした彩色とそれによる立体感を割と見慣れてしまっているので、彼のあっさりしたというか平板なというか、この絵のタッチは不思議な感覚を与えてくるのだ。

 

写実性という観点では確かにそうでもないなと思うが、かと言って稚拙なわけではもちろん無い。

 

独特のタッチというか、そういうものが確かにあるんだろうなと思うわけだ。

 

それこそ速水御舟の有名な屏風の絵もあるのだけど、そういうある種この浮世から切り離されたような世界観とでもいおうか、そういうものを感じるのである。

 

そんな速水御舟の作品も展示されている。

f:id:back_to_motif:20210516224717j:plain

速水御舟 「椿ノ花」

この人は不出世の画力と評されるほど非常に高い画力を誇った人で、代表作の「炎舞」という作品は重要文化財にも指定されている。

 

彼は30歳そこそこでなくなってしまうので、非常に活動期間は短いのだけど、その中でも次々と画風を変化させており、西洋画のタッチも取り入れたり、時期によって絵の雰囲気はだいぶ違う。

 

私はこの人が好きなのだけど、それは彼の言葉にも現れているがそれはまた別の機会に書くとして、この絵は非常に写実的に描かれた椿の花である。

 

葉の表裏で明確に異なる濃淡の対比も見事だ。

 

西洋画のように背景は紙のそれを生かしたままなので、対象だけがポッと浮かび上がったように見えるのも、日本画の特徴だろう。

 

 

f:id:back_to_motif:20210516225151j:plain

山口蓬春 「梅雨晴」

より近代的な画家では山口逢春などはそうだろうか、西洋画の影響も受けてか、全体にしっかり描きこまれて、かなり立体感も感じさせるタッチだ。

 

紫陽花を描いた作品だが、こちらも写実性が高く、緻密に描かれた作品だ。

 

個人的には紫陽花ってあんまり好きな花では無いし、綺麗だと思ったこともないのが正直なところだが、絵として見る分にはいいものである。

 

従来的な掛け軸に描く花もあれば、こうしていわゆる絵というのか、そうして描かれるものもあって、画材の変化が絵の印象にも影響を与えているのもみて取れて面白いところだろう。

 

その他にも加山又造川端龍子奥村土牛横山大観といった巨匠と呼ばれる人の絵も展示されているが、個人的に非常に印象的だったのはこの作品だ。

f:id:back_to_motif:20210516225905j:plain

野口小蘋「芙蓉夏鴨」

画像が小さいものしか見つからなかったが、明治の女性画家だそうだ。

 

こうした日本画の中で私が見事だなと唸るのは、まるで一筆書きのような勢いの中に繊細な構図が見えるところだったりするが、こちらの絵はそのラフなタッチもありながら詳細は非常に丁寧に描かれており、そのバランスが絶妙なのである。

 

鴨もめちゃくちゃ写実的に描かれているし、葉っぱや花も全て緻密なんだけど、しゃっしゃっと肩の力を入れずに描いたようなところもあって、本当に絶妙なんですよ。

 

うまくいえる言葉がないのが悔しいが、この絵は特に立ち止まってしまったね。

 

昔はこういう日本画って全然意味がわからなかったし、写真のような写実性のある西洋画の方がわかりやすい驚きがあったけど、絵画という観点でみていくと、日本画ならではの構築美であったり描き方であったりも面白くて、それぞれの文化としての違いを比べてみるのも面白いのである。

 

日本の花と音楽と

この展覧会を見ながら、どんな曲がマッチしそうかと考えてみると難しいところであるが、他の国ではきっと生まれ得ない、日本独自の美感という観点ではこの曲などはどうだろか。


www.youtube.com

日本が世界に誇るべきインディーズの伝説、ゆらゆら帝国の”空洞です”。

 

カルト的な人気を当初から得ており、一度ハマると抜け出せない沼みたいな音楽を展開していた三人組のロックバンドだ。

 

初期はアングラ臭漂うかっこいいロックだったが、彼らが自ら「完成してしまった」といって解散の要因ともなったのがこの曲だと言われている。

 

力が抜けて観念的な歌詞、途中ちょっと切ないメロディもあって、ワビサビをここまで感じさせてくれる曲もそうはあるまい。

 

空洞です、というタイトルもそうだが、歌詞も聴いてみてもらうと一聴すると意味不明だがふとした瞬間に頭を流れてくる中毒性は半端ない。

 

ラストアルバムはアメリカの、当時世界的に注目されていたDFAというレーベルからもリリースされていたので、ついに世界進出かと期待された矢先に解散してしまったので、なかなかの衝撃だったな。

 

ヴォーカルだった坂本慎太郎は今はソロで活動しており、ドイツでもライブをやっていたりする。

 

ともあれ、この空気感は言葉にするのは難しいけど、日本っぽいなとなんとなく感じてしまう。

 

 

まとめ

日本画は中国とかそっちの絵を源流にしているものが多いのか、西洋画とはそもそも絵の描き方とか世界観が異なる。

 

近代になって西洋画の影響もあり、黒田清輝らの尽力もありもはやわけへ立つのもナンセンスなくらいになってきている。

 

その過渡期にある画家の絵がこの山美術館には多く収蔵されているので、その変遷を感じる意味でも面白いのだ。

 

今年も花見を楽しむこともできなかったし、家にいる時間が長いので、どうにも心が腐りそうな気持ちがしてしまうが、たまには絵でも見てその世界に浸ることで現実とは違う世界を味わえていいと思うのである。